イリヤの空、UFOの夏/秋山瑞人

総評:A
イリヤが出版された辺りからラノベが栄えだしたという私見を持っている。つまりは昨今のラノベブームの火付け役。なのにこの小説はラノベの範疇を逸脱している。
まず、文体はクセがあるのに村上春樹並読みやすい。しかも、内容が濃い。いちいちおもしろいと感じさせる。
総括としては、非常におもしろかった、で締めくくれる。3巻の途中までは。


別に続けようと思えば、ダラダラ10巻ぐらいまで続けられそうな内容だし、むしろ続けて欲しかった。
しかし、夏は終わる。しかも、この夏は夏休みが終わった後のほんの短い夏の話で、急に物語りは終わりを迎える。
イリヤという少女は夏の象徴で、ダラダラいつまでも夏を引きずる主人公は、見事ズッポリ夏にはまっている読者とリンクし、他の生徒はみんな秋服に衣替えしているのに主人公だけ夏服だったりするシーンとか、読んでて一々悲しくなる。
そして、この小説の終わり方は非常にキレイな終わり方をしている。
一般的な最終回と言えば、光に向かって「さあ、行こう!」とか言って終わったり、ケンカばかりしている幼なじみが接吻なり性行為なりした後にやっぱりケンカばっかりして友達にアレがあの二人のラブラブの姿だヤレヤレとか言って終わったり、ラスボス倒したと思ったら次のボスがあらわれてオレは奴を探しに行くとか言って終わったり、家に居候していた美少女がサヨナラの手紙を残していなくなっていて飛行機の便に間に合わなくてサヨナラも言えないとか大泣きして1ヶ月したら急に美少女がノコノコ帰って来てまた居座ったりとか、物語自体を終わらせない、まだ物語は続くがこのお話はここまで的な終わり方が多く、この終わらせ方は、作者も読者もサッパリできるし、ましてやイリヤの空の様な日常+非日常型ボーイミーツガールは、そういう終わらせ方しかできないと思っていた。
イリヤの空は、まったくそんな可能性を感じさせない、真剣居合い抜きでバッサリと斬れたワラの束みたいな、キレイな終わり方をする。
そのしで、読了後もずるずる世界を引きずってしまう。
後を引く終わり方をすると、読了後サッパリし、サッパリした終わり方をすると後を引くというのはなかなかの発見だった。
んで、後を引くあまり、タイトルだけ見て続編かと勘違いしてイリスの虹を買った。
詐欺かよコンチクショウ。